witchのヘッドカノン

オリエンテーション_勝手に改造版_by witch

こんにちは、皆さん。私は財団外宇宙支部所管、サイト-0012、通称ツィオルコフスキークレーター基地所属のイレーネ・ハーケ博士です。専門は外宇宙心理学で、ファーストコンタクト時の地球外知的生命体の心理について研究しています。ちょっと席に空きがありますね……遅刻の人が来るまで軽いお話しをしましょうか。
ええ、おかけになってください。あーっと……手すりがありますからそれを支えにして、ベルトで体を固定してください。慣れれば大したことはありません。ほら。
私の専門は前述の通り、ファーストコンタクト時の地球外知的生命体の心理を研究することなのですが、そもそも知的生命体の思考というのは文化・社会背景に大きく左右されるものです。ジェスチャーもそうですね。例えばサムズアップは、英語圏では肯定的意味を持ちますが、中東では侮辱と取られます。
ファーストコンタクトで手を振ったり、旗を上げたり、発光信号を送ったりしたとき、それが相手を怒らせる行為だったとしたら……。そして、これらが発生したときどう対処すればよいか。文化研究にも隣接する分野なのです。

ううん……取り敢えず5分過ぎたので、始めますね。
えっ? ベーグルは無いのかって?到着後すぐの食事を選択した人の分はありません。“おやつの”ベーグルを運ぶエネルギーがあれば、他のもっと必要性の高い資材が運べるのですから。紅茶は全員分ありますから、パックから召し上がってください。勿論、ノンカフェインです。寝ないでくださいよ。
先程お配りした封筒の中に個人カードが入ってますので、もっとマトモな食事にありつきたい人はこの後食堂に行って、スペシャルディナーでも頼むと良いでしょう。微生物とか培養肉と言われると最初は薄気味悪いかもしれませんが、ここでも美味しい食生活を維持したい職員達の努力の結晶ですから。

では、気を取り直して。
これからの貴方達の配属先である"外宇宙支部"はここ月の他、太陽系各地に施設を持つ、財団の宇宙担当組織です。外宇宙支部には地上の各"支部"に匹敵する権限と財産が与えられています。
とはいえ、これから皆さんが配属される外宇宙支部の勤務環境は正直に言って、地球上より制限されたものになるでしょう。太陽系外縁の基地では非常用の備蓄を除けば必要以上の物資はまず手に入ることはありませんし、節電、節水が欠かせません。
月は地球に近いこともあり、設備環境が整っていることから、比較的自由はあります。しかし、水や食料、空気は勿論の事、物資、エネルギーの浪費は地上以上の罰則付きです。場所によっては罰則は給料からではなく、その命で払って頂くので、月勤務は幸運ですね。
コホン……。はい。
新人職員の何人かが始末書を書いている裏では、配分の再調整や輸送物資の内訳変更といった多くの仕事が実行されることになります。大丈夫、これは新人職員が配属されたときの恒例行事です。
財団の理念は、確保(Secure)、収容(Contain)、保護(Protect)ですが、私達"外宇宙支部"の仕事は言ってみれば、探査(Search)、発見(Discover)、観察(Observe)です。観察は、研究(Research)としてもいいですね。
外宇宙に存在する異常存在の多くは、残念ながら我々の知識を以ってしても不可解なものだけでなく、地球から光年単位で離れているもの、実在こそ明らなはずなのに見つからない、見つけられないもの、地球に接近した場合に最悪人類が滅ぶもの、そもそも収容不可能なものも珍しくなく、収容に地球上で見つかる異常存在の倍以上の手間がかかるものが殆どです。
そのため、研究が"外宇宙支部"の主な業務と成ります。これは外宇宙に進出した頃から多少の差はあれど、変わりません。
この点においてはGOCも同じであり、外宇宙においては、財団とGOCは地上と同等以上の友好的関係を維持していると言えます。宇宙関連技術共有協定も締結されていますし、そもそも、宇宙ではアノマリーを破壊することは難しいですからね。とはいえ、たまに"不慮の事故"が発生してしまうのですが……。
一方、国家の宇宙開発機関との関係は友好というよりは、財団側が利用する形が多いです。いま椅子に座っている人の中には、組織にいた時、優秀な人材がどこかに引き抜かれたり、謎の宇宙船を見つけたと喜んでたら闇に葬られたりした人もいるでしょう。それが幽霊のように掴み所のない謎の組織の仕業だという他愛もない噂もご存知のはず。ようこそ、今日から貴方も"幽霊"です。
さて、このオリエンテーションはあくまで"外宇宙支部の"オリエンテーションの為、これから皆さんの配属先で業務別のオリエンテーションが行われます。
はい。終了時刻も迫ってきたのでオリエンテーションを終了しようと思います。
あと、最後に慌てて入ってきたそこの貴方。入り口においてある封筒、忘れずにもらっていってください。その中身がないと業務も食事も睡眠もできませんよ。
最後にひとつ。ヴェルナー・フォン・ブラウンの言葉を借りて。「新人職員にとっての2つの大きな問題は重力と事務仕事だ。月の重力にはじきになれるだろうが、事務仕事は時に圧倒的すぎる」。
お疲れさまでした。解散です。後ろの扉からお帰りください。ああっ、慌てて立ち上がらないで……!

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス-表示-継承 の元で利用可能です。